ベルギービールの神髄 「ランビック」 – カンティヨン醸造所訪問記

2011年5月1日
Category - ビールの話
Author - M.Sasaki

先日読んでみた「もやしもん」。その中で、ベルギーの自然発酵ビール「Lambic」(ランビック)が取り上げられていました。

普通のビールは、予め「純粋培養」して増やした唯一種の酵母を人為的に添加して発酵させます。それ以外の微生物が入り込まないようにすることがとても大事です。ガージェリーもそのようにして醸造します。
一方、自然発酵ビールであるランビックは、その場に存在する種々雑多な微生物が自然に麦汁を発酵させるのを待つのです。微生物の培養などという概念、技術がなかった時代をイメージしていただければ良いでしょう。

さて、ベルギービールと言えばランビック・・・と思っている私、2002年1月、「みねばん」さんと一緒にヨーロッパへビール飲み歩きに行った時、このランビックで有名なCANTILLON BREWERY (カンティヨン醸造所)を訪問しました。
その当時の写真をもとに、この興味深いビール、そして醸造所の内部を紹介しましょう。(醸造所の写真は「みねばん」さんの撮影です)

CANTILLONメイン麦汁と微生物の出会いの場 – Cooling Tun

ブリュッセル市内の神秘の醸造所

カンティヨン醸造所を訪ねたのは2002年1月15日。
その醸造所は、町はずれにある倉庫のような佇まいで、ぼんやりしていたら見落としてしまいそうな外観です。しかし、一歩中へ入ると、そこには時代を逆戻りしたかのような古色蒼然たる醸造設備があり、木樽、そして埃まみれの壜の中でじっと目覚めの時を待つビールが眠る、神秘の醸造所が広がっていました。

CANTILLON外観
この醸造所は、一般の見学も随時受け入れており、ビールに興味がある方ならば、絶対に楽しめること請け合いです。それでは、醸造所の内部に入ってみたいと思います。

仕込工程はごく普通

ランビックと言っても、仕込工程は普通のビールと同じ。大麦麦芽、そして小麦(ここのランビックには小麦を使っています。小麦麦芽ではない!)を粉砕、糖化するところから始まります。その後、麦汁濾過をしてから煮沸へ。ここまではごくごく普通。使っている設備が、下の写真のように年代を感じさせるものではありますが、取り立てて特徴はありません。問題はこれに続く、麦汁冷却から発酵、熟成に至る工程です。

CANTILLON仕込

麦汁と微生物の神秘の出会い

出来上がった麦汁は、Cooling Tun(冷却槽)と呼ばれる、平たく四角い洗面器のような槽に移されます。(↑↑↑一番上の写真)
何と言うことはないこの空間こそが、麦汁が微生物との出会いを待つ場であり、ランビックの肝なのです。写真で分かるように、あまりきれいとは言えない屋根が組まれていて、その枠組みの中に押し込まれている保温材のようなものも薄汚れています。しかし、この部屋を掃除してしまうと、ランビックが作れなくなってしまうのです。汚い屋根に囲まれたこの空間に、ランビックを醸す微生物たちが連綿と息づき、麦汁との神秘の出会いを待っている・・・聞いているだけでワクワクしてくるではありませんか。

木樽、壜による発酵、熟成へ

CANTILLON熟成
さて、冷却槽で微生物と出会い、自然発酵が始まった麦汁は木樽(写真左)へと移されます。木樽で1年間熟成されたものが「Young」(若いランビック)、さらに2年間熟成されてようやく「Full Maturity」(完熟のランビック)に到達するのだそうです。

カンティヨンの製品で一番ポピュラーなものが「Gueuze」(グーズ)です。このビールは、完熟したランビックに、まだ糖分が残る若いランビックをブレンドして壜詰、コルク栓を施し、その状態で1年間程度熟成させたものです。右上の写真は、この熟成中の壜が寝かせた状態で積み上げられたものなのですが、このような壜の山が、醸造所内の通路の脇のあちこちに見られました。静かに目覚めの時を待つビールたちなのですね。

あまりにもフレッシュな香味に感動

CANTILLON試飲
さて、工場見学の後はお楽しみの試飲タイム。「出来たて」という表現が正しいのかどうか分かりませんが、すぐそこで積まれていた壜のGueuzeの試飲となりました。
そして、一口飲んでびっくり。まるで爽やかなジュースのような、フレッシュなワインのような、それまでに経験のない香味が五感を震わせました。もちろん、それ以前に日本でGueuzeを飲んだことがありましたが、その記憶にある香味とは全くの別物。現地で飲むコンディションの良いビールの凄みを改めて感じたのでした。

輸入ビールの限界

最近は、日本でもベルギービールが気軽に飲めるようになっています。カンティヨン醸造所を振り返ってみたのを機に、先日、久しぶりにGueuzeを飲んでみました。しかし、9年前の記憶にあるあの香味とはやはり違うようです。

CANTILLON製品
Gueuzeは壜内熟成ですから、酸化による経時変化はそれほど気にする必要はないはずです。長距離輸送中の温度変化、振動、日光、そういった様々な要素がビールにダメージを与えているのだと思います。日本で飲む輸入ビールの香味にはどうしても限界がある・・・そんなことを改めて感じた、日本で飲む「カンティヨン・グーズ」でした。